4年に1度の胸躍る6月がやってくる。

 澄みきった青空と、美しい絨毯のような緑のピッチ。 思い思いのユニフォームを身にまとった観客たち。 歓喜の雄叫びをあげる者、悲しみの涙を流す者。

 今年もまた、サッカー欧州選手権の熱狂と興奮に酔いしれよう。
この瞬間を4年も待ったのだから。

 フットボールは素晴らしい。 (ここでは、あえて“サッカー”ではなく、愛情を込めて“フットボール”と言わせてもらいたい) なぜ、これほど熱狂し、興奮し、感動し、そしてときに悲嘆に暮れるのか。 何が見る者をそこまで惹きつけるのだろうか。

 フットボールにはドラマがある。 誰も予想できない展開、誰も知らない結末。
ピッチの上を駆け回る“11+11=22人”。 ベンチに控える選手。監督、コーチ、スタッフ。 それぞれの人生=ドラマがそこにある。

 先日行われた、マンチェスター・ユナイテッド×チェルシーによる イングランド勢対決となったUEFAチャンピオンズリーグ決勝も まさに“予測不可能なドラマ”と呼ぶにふさわしい激闘だった。

 延長戦でも決着がつかず、勝負はPK戦へ…。
チェルシー5人目のキッカーが決めれば悲願の初優勝。 想像を絶する重圧がかかるキッカーを務めるのは、キャプテンのジョン・テリー。 決勝を目前に控え、テリーは次のようにその胸の内を語っていた。 「私のキャリアの中でも1番のビッグゲームになるだろう。とにかくトロフィーを手にしたい」。

 このPKを決めれば、その言葉通りトロフィーを手にすることができる。
舞台は整った。あとは…決めるだけだ。 チームメイトたちの祈るような思いをその背中に受けて、 闘志を胸に秘めたキャプテンはこう思っていたに違いない。 「絶対に決めてやる。この一蹴りで決めるんだ」。 その脳裏には、夢の舞台にたどり着くまでの苦難の道のりがよぎったのだろうか。 自らの手で念願のビッグイヤー(=優勝トロフィーの愛称)を高々と掲げる瞬間が思い浮かんだのだろうか。 それとも無我の境地だったのだろうか。

 しかし…
手にしかけていたビッグイヤーは、スルリとその手から逃げていった。
フットボールは素晴らしい。だが、同時に残酷でもある。 勝者がいれば敗者がいる。
当然ではあるが…。

 試合途中から降り出した雨の影響でゆるくなったピッチに軸足を滑らせ、 テリーの蹴ったボールはゴール右ポストをかすめ、枠の外へ…。
もし、雨が降っていなければ…
もし、蹴ったボールがあと数センチ左に飛んでいれば…。
もし、○○だったら…
もし、○○していれば…
しかし、残念だがフットボールの世界に“たられば”はない。
フットボールだけでなく、それは人生でも同じだ。

 壮絶なPK戦の末、敗れたチェルシー。
偉大なるキャプテン、ジョン・テリーの絶望は計り知れない。

 かつてフランスのジダンがこんなことを言っていた。
「勝負の世界には、勝者がいれば必ず敗者がいる。試合で負けることもあるだろう。
だが、重要なのはその負けから何かを学び、再び立ち向かっていくことだ。
そうすればその人間は必ず“人生においての勝者”となるだろう」。

 きっとテリーも、その強い意志で、再び立ち向かっていくことだろう。

勝つこともあれば、負けることもある。
晴れの日があれば、雨の日があるように。
フットボールは続いていく。
そして、人生も続いていく。

それぞれに積み重ねてきた数々のドラマ。
ある者は、愛する人のため。ある者は、自分のため。
ある者は、ケガを乗り越え、再びボールを蹴る喜びを感じ。
ある者は、4年前の“借り”を返すため。

 6月のヨーロッパの青き空の下、 選ばれし16カ国を代表する男たちが、熱き思いと誇りを胸に戦いを繰り広げる。 喜びの涙、悲しみの涙…。 約3週間におよぶ“祭典”の末に歓喜の涙を流すのはたった1チームだけだ。

 緑のピッチの上で展開される熱い戦いとともに、その裏にある男たちのドラマを感じてほしい。

 今回のサッカー欧州選手権「UEFA EURO2008」を機に、 フットボールの素晴らしさに触れ、感動を味わっていただけたら、こんなに嬉しいことはない。

 自分が愛してやまないフットボールの素晴らしさを、誰かひとりにでも届けることができ、 その人の人生を豊かなものにするきっかけが作れたなら── ボクはそのことを一生誇りに思えるだろう。


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